黒水晶
動揺のせいで、マイの展開していた魔法壁は涼やかな音と共に消え去った。
ディレットの攻撃で崩れた城が瓦礫(がれき)の山から砂けむりが立ち上がり、イサやレイルの視界は悪くなった。
「……!」
粉塵(ふんじん)舞う空間に、淡い水色の光が円を描くように現れる。
マイに代わり、フェルトが魔術を用いて、無防備な仲間や兵士達に防御壁を展開したのだ。
エーテルにも同じようにする。
おかげで怪我を負う人間はおらず、エーテルの体にもいま以上の傷はつかずに済んだが、エーテルの心臓には氷の刃(やいば)が突き刺さったままとなっており、彼女の呼吸も細くなった。
瓦礫の集積場と成り果てたガーデット城。
砂や岩が積み重なって出来た小さな山があちこちにあり、見通しも悪い。
砂けむりがやまないから、なおさらである。
誰がどこにいるのか、分からない。
そんな中マイは、エーテルの倒れているだろう場所まで移動した。
初めて使う、空間転移の魔法を使って……。
空間転移魔法とは、歩くことをせず宙に浮いて好きな場所に移動できる魔法のことである。
マイの潜在魔力は、エーテルの気配を感じ取ることができる。