黒水晶
ディレットは、自分にとって都合の良い策を導き出した。
絶え間なく魔術攻撃を繰り出してくるフェルトとレイルの口をふさぎ、マイの怒りを呼び寄せる方法を――。
「エーテル……!!」
マイが叫ぶのと同時に、エーテルの口から大量の血液が飛散した。
エーテルの背中には、氷のヤリが刺さっている。
マイは動揺し、全員の身を守っていた彼女の魔法壁は弱まってしまった。
その隙をつき、ディレットはエーテルの心臓めがけて、再度、尖った氷の先端を突き刺した。
トルコ国の人間でも、王族に近い血筋の者しか使えない、氷属性の上級魔術である。
それは、もっとも強力と言われる魔法をはじいて相手に攻撃できる唯一の魔術だった。
今までそれを使わなかったのは、ディレット自身の命も削る命懸けの上級魔術だから。
また、いまエーテルに向けて放たれた魔術は、突き刺した部分を一瞬にして凍らせ、刺した場所によっては即死する。
「……嘘でしょう?」
常時陽気なフェルトも、低い声でつぶやく。
「ディレット様……。なぜ!?
流派は違えど、同じ魔術師を大切にする。
昔のあなたは、そんな人だったじゃないすか……!」
レイルは目に涙をにじませ、ディレットに叫んだ。
エーテルを包んでいた青い防御魔法の膜はガラスが割れるような音を立てて破れる。
ディレットの魔術をまともに受けたエーテルは強く吹き飛ばされ、瓦礫(がれき)の山に全身を打ち付けると、無抵抗なまま地面に倒れた。