黒水晶

もうすぐ暑い季節がやってくる。

なまぬるい夜風を頬に感じつつ、マイはただ、空を目指した。

コエテルノ·イレニスタ王国を出てしばらくは人目を気にして自分の足で歩くようにしていたが、途中からは魔法で空を飛ぶことにした。


地上を離れてしばらくたつと、真っ暗闇の中にぼんやり明るい光の束が見えた。

コエテルノ·イレニスタ城と城下町が放つ光。

地平線がはっきり見えるほど、空に近づいた。


「これからもフェルトさんやレイルと協力して生きていきたかった。

リンネと一緒に、テグレンを大事にしたかった。

本当は、イサのそばにいたかった……」


イサの優しい声と爽やかな笑顔。

テグレンがくれた無償の愛。

フェルトとレイルの温和な理解。

イサと共に新しい国を作ると決めた1年前から今日までのことを思い出し、マイは鼻の奥が痛くなるのを感じた。

こぼれる涙は、遠くの山から吹いてくる強い風にのってどこかにさらわれる。

風にたなびく衣装の音と別れのつらさが、マイの感じる全てだった。


本当は、一生みんなのそばにいたい。

けれど、魔法使いの自分が生きる場所はここにはないのだ。

今は平和な毎日が続いているけれど、イサと自分がいなくなった後、世の中がどうなるかは分からない。

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