毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「毬亜はまだ見つからないのかっ!」

 信長の罵声が飛ぶ。

 下座にいる人々が「申し訳ありません」と一斉に頭を下げると、信長の全身から漂ってくる強い気にわなわなと恐怖を感じ、身を震わせた。

「なぜ見つからんのだ」

 信長が言葉を乱暴に吐き出すと、肘かけに肘をついてこめかみを揉み込んだ。

「兄上、少しお休みになられたほうが……」

 信包が、すすっと信長の隣に寄ると小さな声で囁いた。

「休めるわけがなかろう。毬亜が居なくなったんだぞ。儂の隣で寝ておったのに。確かにこの腕の中に居たのに……消えたのだ。義元より先に、毬亜を見つけなければ」

 ふうっと信長が重苦しい息を吐きだした。


「信長様っ」と声に出し、私は目が覚めた。

 自分の声で目覚めるなんて。

 私は枕の横にある携帯に手を伸ばして、時間を確認する。

 午前5時。少々、早すぎる目覚めだ。

 うつ伏せになり、柔らかい枕に顔を埋めると、目を開けたまま、白い壁を見つめた。

 夢だったのかな? それとも……。

 幽体離脱みたいな感じで、信長の姿を見たのかな?

 急に胃のあたりがムカムカしてくると、「うっ」と口元を押さえてベッドを飛び出した。

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