毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
トイレに駆け込んで、胃がすっきりするまで吐き続ける。

 私の場合、起きぬけが一番気持ちが悪い。

 一度、がっつり吐いてしまえば、すっきりして身体が楽になる。

 すこしぽっこりしてきた下っ腹を撫でると、私は無性に寂しくなった。

 こんなこと親にも相談できず、聖にも言えない。

 そんな状況で、私は実家から独立した。婚前に一人暮らしを始めたいって言いだした私に、両親は疑問符だらけの表情をしてた。

「何で今さら? もう結婚するっていうのに」と言わんばかりの顔で、私を見てたのをはっきりと覚えている。

 聖はもう、薄々気づいているみたい。私が別れを切り出したいと思っているって。

 それでも切り出そうとする私に、素早く察知して逃げられてしまう。

「話そう」と意を決するたびに、聖は「用があるから会えない」なんて言って、デートをキャンセルするんだ。

 もうかれこれ、一か月近くプライベートでは会えていない。

 仕事場では毎日のように会うのにね。

 会いたい人に会えないって、辛い。

 私は今、信長にすごく会いたいよ。抱きしめてもらいたい。

 そして喜んでもらいたいな。妊娠したことを、一緒にお祝いしたいのに。

 信長はいない。居たけど、この時代では、過去の人なんだ。

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