毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 だけど、声に聞き覚えがある。ううん。似ている。信長の声に似ているんだ。

 若干、若い感じがする。もしかして、信長の弟あたりだろうか。

「私は誰にも命令なんてされてません」

 ぐっと冷たいものが、首に圧迫される。

「言えよ。吐けよ。今川の人間だろ? 一芝居打ったんだろ?『異世界から、勝利の鍵を握る女が桶狭間に現る』なんて情報を流しやがって。兄上がそんな陳腐な情報を信じるとでも思ったのか?」

「だから、私は何も……知らないんです」

 怖い。

 きっと首にあるのは、刃物だ。

 それで切られたら、私は死ぬ。確実に、死んでしまう。

 どうしたら、私の誤解が解けるのだろう。そして私の言葉を信じてくれるのだろうか。

 私は腹の上に乗っかっている信長の弟に、恐怖を抱いた。

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