毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「兄上……、だってこの女。明らかにおかしいじゃないか」

「信包(のぶかね)、儂のやり方に文句があるのか?」

「いえ。兄上のやり方には文句は全くありません。だた、この女を信用しすぎじゃないかと。絶対に今川軍が送り込んできた刺客に違いありません。兄上の首を狙っているんです」

「儂はいつでも、首を狙われておる。今に始まったことではない。それにこの女に人は殺せまい。凶器になるような物は所持してなかったし、鍛えてある身体でも無い。儂を本気で殺す気があってここにいるのなら、お前が入ってきた時点でお前がこの女に殺されておるはずだ」

 信長の言葉に、信包が「確かに」と頷いた。

「俺が入ってきても間抜けに寝息をたてている女に人が殺せるとは思えない」と信包が呟いた。

「いい加減に、女から離れろ……信包」

 信包が、私の上から降りると着ていた着物の襟を正して、信長のほうへと歩いて行った。

 私は身体を起こすと、ふうっと小さく息を吐いた。
< 29 / 130 >

この作品をシェア

pagetop