毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 満足のいかない表情で、下を向く。

「儂は今夜、ここで寝る。お前たちはさがれ」

「兄上!?」

「何だ?」

「……いえ。では、ごゆっくり」

 悔しい顔を隠しきれないまま、信包が藤吉郎とともに部屋を後にした。

「言葉の悪い弟で申し訳ない。悪い奴ではないのだが」

「弟さんの言っているのは正論だと思います。私はたぶん、この世界には必要のない人間だと思いますから」

 私は頬をあげて笑顔を作った。

「無理に笑わなくて良い。お前は必要があるから、ここに来た。儂はそう思っておる。必ず、お前がここに居る意味がある。お前もそう信じていろ」

「はい」と私は返事をすると、ぎゅっと信長に手を掴まれた。

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