毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「どうして、今川義元と戦を?」

「あんた、そんなこともわからないで、戦の勝敗を知ってるって言うのか?」

 私の質問に、信包の怒り声があがる。

 障子を挟んで、廊下にいるのに、痛いくらいに殺気を感じる。

 私はぶるっと全身を震わせた。

「信包、お前は少し黙っていろ」

「兄上、しかし! 俺には、到底信用できる女だと思えない」

「昨日、儂は尾張の守護代だと言ったのは覚えておるな」

 私は信長の言葉に頷いた。

「だが儂は、尾張の全てを掌握しているわけじゃない。尾張の大高城と鳴海城は、今川義元の配下にある。儂はそれを手に入れたい。尾張を統一したいのだ。だから今川と戦になっている」

「そう、なんですか」

 尾張を統一するために、桶狭間の戦いが起こるのね。

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