毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「眠れないのか?」

 信長の低い声がした。

 信長が、畳に横になったまま、私をじっと見ていた。

 寝ていると思ったのに。

 私は信長から視線をそらして、枕もとでゆらゆらと揺れている蝋燭の炎に目をやった。

「少し考え事をしてました」

「どんな?」

「私が勉強した信長様と、今、目の前にいる信長様が違うなあ……って」

「当たり前だ。歴史というものは、勝者によって良いように書き換えられるものだ。全てが真実というわけではない」

「やっぱり。信長様は私がどこから来たのか、わかってるんですね。それも確信をもってる」

 私はくすっと笑うと、枕に頭を預けた。

「儂を誰だと思っておる?」

「信長様です」

「わかってるじゃないか」と信長が、鼻を鳴らして笑った。
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