毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「何でもありません」

「何でも無いって雰囲気じゃないだろ」

「私、信長様に求められてるって思ったら凄く嬉しかったんです」

 私は、泣きたくないって思ってるのに、ぽろぽろと涙が溢れては枕へと流れて行くのがわかった。

「なら、どうして泣いてる?」

「婚約者を思い出したんです。彼は私を求めてなかったのだと思って。若い女性との浮気を隠すために、私を求める風を装っていたのかと考えたら……なんだか涙が出てしまって。それなのに、彼との交際は順調だと思っていた自分が馬鹿みたいって」

 腕で、涙をぬぐった。

 恥ずかしい。泣いてる姿を信長に知られてしまった。

 まるでまだ聖のことが好きみたいな言い方になってる。違うのに。

 好きだったけれど、今は好きじゃない。

 嫌いってわけでもないのが、悔しいけど。

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