毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 あんな奴、もう大嫌いなんだから! って言えたら、きっと胸の内はすっきりするんだろうな。

「男とはそう生き物だ。それに隠すために求めていたのではない可能性だってある。お前にも、きちんと欲情していたかもしれないだろ。お前を傷つけた男の肩をもつのは癪にさわるが、な」

『ちっ』と信長が舌打ちをした。

「好きという感情がなくても、欲情するって言いますもんね」

「儂の時代の男だったなら、今すぐにでも儂が叩き切ってやれるのにな。一族もろともな」

「生きてる時代が違います」

「だから余計、腹立たしいんだ。お前を泣かせる男など、生きてても意味などありはせん!」

 だんっと信長が拳で畳を叩いた。

 本気で怒ってるみたい。私はくすっと笑うと、布団を首までしっかりとかけた。

「生きている意味……か」

 私がぼそっと呟いた。

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