毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 今川軍から守るために、時間があるときは私の傍にいて守ってくれてるだけだし。

「その噂、膨らみすぎよ」

「膨らますことに意味があんだろ」

「そうなの?」

「今川義元にとったら、聞きたくもねえ噂だろうからね」

『おっし』と言葉を吐きだしながら、信包が立ち上がった。

「もう行っちゃうの? その話、詳しく聞かせてくれてもいいじゃない」

「やなこった。あんま長居すると、また変な噂が流れちまう。俺があんたに夢中だってな」

 信包の汗がついた手ぬぐいが、私の眼前に叩きつけられた。

< 80 / 130 >

この作品をシェア

pagetop