毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「ただ、気をつけろよって忠告しに来たんだ。その噂のせいで、濃姫のご機嫌が相当、悪いらしいから」

 顔にかかった手ぬぐいを外すと、信包がニヤリと笑って私を見ていた。

「誤解を解く方法は何かある?」

「あながち、まるっきりの誤解ってわけじゃねえじゃん。兄上はあんたを愛してるわけだし。正室のほうから見れば、心穏やかな話題では……ないよな。たとえ愛し合ってなくとも、不安や怒りはついてくるもんだ。もしあんたに子でも授かったら、とかね。次期織田家の当主はどちらの子になるのか」

「私と信長様はそんな関係ではないわ」

「毎晩、同じ部屋で過ごしてるんだぜ? 俺はどんな関係かを知ってるけど。他人様はどう思うかな? やることをしっかりやってるって思うのが、世の中ってもんだろ」

「もうっ! 助平っ」

 私は手に持っている手ぬぐいを信包に向けて投げつけた。

 手ぬぐいは、信包の胸に当たると、失速して土の上に落ちた。
< 81 / 130 >

この作品をシェア

pagetop