毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「あはは。そう思ってるのは俺だけじゃねえと思うよ! じゃあな」

 豪快な笑い声を響かせて、信包が私のいる屋敷から出て行った。

 確かに、毎晩一緒に信長と過ごすけど。何もないもの。

 信長は絶対に私に手をだしてこない。

 たぶん、私が良いと言ったら、すぐにそういう関係になってしまうんだろうけど。

 私から言わなければ、ずっと何も起きない。清いままの関係だ。

「信包様ったら! 信長様の弟君とは思えないほど、無礼ですわね」

 小夜が私の近くに寄ってくると、立ち去った信包の残像を見つめたまま、声をかけてきた。

「口は悪いけど、すごく助かってるの。信長様なら絶対に話してくれないような内容を私に教えてくれるから。私の噂話を信長様だったら話さないでしょ? 城内で流行るなら、きっと私の耳に届かないようにもみ消すと思うの」

 私は小夜のほうに顔を向けた。
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