毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 私が信包にむけて投げた手ぬぐいを拾うと、ざわざわと人が争う声がしたほうに目を向けた。

 信包の情報って、絶妙のタイミングで耳に入れてくれるからありがたい。

 早すぎず、遅すぎず。

 私は裸足のまま、声のしたほうに足を向ける。

「ちょ……。毬亜様!? 草履をお履きになってくださいっ」

 小夜の叫び声が後ろで聞こえたが、振り返らずに私の屋敷の前にある門へと出向く。

 門の前で、私の屋敷を守ってくれている警備兵と濃姫の女御たちが言い争っていた。

 いくら正妻と言えど、信長の命があっては通すこともできない。

 私は警備兵のところまで小走りで行った。

「濃姫様」と私は頭をさげる。

「あら、はしたない。裸足で外にお出になるなんて」

 濃姫の女御が、嫌味を口にした。

「裸足も気持ち良いですよ」

 私はにっこりと笑った。
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