毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「濃姫様です。お通して構わないから」と私は、警備兵の耳元で囁いた。

「しかし、信長様からお止めされています。信包様にも……」

 警備兵が困った表情になる。

「大丈夫。私がきちんと二人に説明するから」

「……わかりました」と警備兵が渋々、門を開けた。

 門が開くと、濃姫の女御が嫌味をどんどんと口から吐き出しながら、屋敷の中へと足を踏み入れた。

 女御が濃姫のかわりに、言いたいことを話しているのか。濃姫は、静かに歩いている。

 気品のある歩き方に、見惚れてしまう。きっと幼いころから、気品ある女性であるようにと教えこまれてきたのだろう。

 私が生きてきた時代と違って、戦国の世は女性が独りで生きていけない時代だ。

 少しでも位の高い男に嫁げるように、幼いころから努力を積んできたに違いない。

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