毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 それなのに、夫は妻に見向きもせず、実家に情報を売る間者だと冷たくされてるなんて。

 私だったら堪えられない。この城から逃げ出したくなる。

 そういうわけにもいかず、正妻として毎日を過ごしていく濃姫は凄いと思う。

「豪華な内掛けばかりね。全て信長様からだとか?」

 隣の部屋で風通しをしている内掛けを目にした濃姫が、遠い目をして口を開いた。

「全部というわけではありませんが」

 私は濃姫の下座に位置する場所に、正座した。

 濃姫は、私が日中座って過ごしている座布団に腰をおろした。

「貴方に内掛けを買うほどのお金があるとは思えないけれど」

 濃姫の視線が私に向かう。

「それとも別の殿方から……ということかしら?」

「いえ。全て信長様からです」

 私は肩を小さくした。

 変に気をまわして、嘘をつくんじゃなかった。すごく空気が重くなった気がする。

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