毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「勘違いなさらないで。信長様から愛していただけてるからって、全てが手に入ると思わないで頂戴。今さら、貴方に子など望めないでしょうし」

 濃姫がくすっと笑い、勝ち誇った表情になった。

 そうだね。この時代じゃあ。30歳を目前にした女は妊娠なんてできないね。

 医学の進歩があってこそ。

 濃姫にとって、唯一勝てるのはそこだけ。信長の子どもがいて、織田家の後継者がいる。それだけが彼女の中にある正妻として権力なんだ。

 私は、それを侵してはいけない。絶対に。

 だって私は、ここに残る人間じゃないから。ここで生きて行くわけじゃないから。

 いずれ消える存在。濃姫の立場を脅かすようなことをしちゃいけないって思う。

「私はいずれ、ここを去らなくてはいけない人間ですから。全てを手に入れようなどと、思っていません」

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