彼女は予想の斜め上を行く
「修羅場とかないよね?」

「修羅場?」

小首を傾げる俺を見据えながら、一気に喋り出した。



「昼ドラであるじゃん。《痴情のもつれ》っつーの?見てる分には安っぽくてドロドロして楽しいけど、リアルに立ち会うのは勘弁して欲しいわけよ。ちなみに、あたしは《真珠夫人》が好き。どういう話か知ってる?男爵令嬢である瑠璃子さんが、父親のために悪徳高利貸しに嫁ぐんだけど……」



「わかりました。充分わかりました」

これ以上、話を続けさせるのはまずいと判断して口を挟む。

「これからが、いいところなのに…」

ドロドロした昼ドラを好む斜め上向き女は、話足りず不服そうな表情を浮かべていた。

「修羅場はないと思うんで」

粘着質な肉食系女子のことを考慮すると確実にないと言い切れないのが、痛いところだ。

「プチ修羅場ぐらいなら、いいけど?」

勘弁して欲しいと言いつつ、目を輝かせて発言する金本さんに苦笑する。

そもそも修羅場にプチも何もないだろう。
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