一億よりも、一秒よりも。
ナユタの左手が、私の目の前に差し出される。
たぶん、この手を取ったら、また私は海を彷徨うことになるのだ。
目印を失って、目標を見失って。

ナユタもそう。私の手を引っ張ったことによって、目当てのものから遠ざかるのかもしれない。
 

だけどもし、その無駄な航路こそが私の人生ならば。ナユタの人生ならば。
無駄こそ人生。死ぬときにそんなこともあったっけと笑って死ねればいいか。
 
どうせ、好きだとか嫌いだとか、考えてもわからないのだ。
だったら、何もないより、マシなのかもしれない。
 

菜の花を左手に持ちかえて、その大きな手のひらに自分の手のひらを重ねる。
ナユタの手は迷うことなく私を包み、前へと一歩、引っ張った。
 
< 41 / 84 >

この作品をシェア

pagetop