抹茶な風に誘われて。~番外編集~
 そうなのだ――夏からお付き合いさせてもらっている、私の恋人で婚約者の一条静さん。

 彼の好みは抹茶と和菓子。私も今は大好きになったほろ苦い抹茶と甘い和菓子の対照的なおいしさは、やみつきになるくらいの相性だと思う。

 それに加えて、生クリームやチョコレートをふんだんに使った甘い洋菓子と紅茶やコーヒーのバランスもとっても素敵であることも、私はわかってる。

 でも、それを苦手とする人にとってはきっと――おいしいとさえ思えないものなんだろう。そして彼――静さんも、その内の一人なのだ。

「どうしても洋菓子はダメって言うなら、別にこだわらなくても和菓子をあげたっていいんじゃない? 彼にとって一番嬉しいのは、かをるちゃんの気持ちでしょう?」

 ちゃんとまともなアドバイスもしてくれる葉子さんに、私は同意する。

 もちろん、静さんなら私が何をプレゼントしてもちゃんと喜んでくれる、と思う。大人でいつも余裕たっぷり、優しい静さんだからそれはわかる。

 だけど、だからこそ本当に喜んでくれるものを贈りたい。そう思うのは、きっと明日に向けてドキドキが最高潮に達している女の子たちに共通する気持ちのはず。

「何なら、自分の体にリボン巻いて、はい私をどうぞ――ってのはどう? ベタかもしれないけど、それが一番嬉しいかもよ?」

「よっ……葉子さんっ!」

 ふざけてリボンを巻くふりをするお茶目すぎる葉子さんと、真っ赤な顔の私。

 血のつながりはなくても、もうお母さんのように感じている人からそんなことを言われたら、恥ずかしすぎて言葉が出ない。

 これがクラスメイトで大事な親友の優月ちゃんや、咲ちゃんなら気の効いた返しができるのだろうけれど、もともとこういう話に慣れていない私には酷すぎるというものだ。

「あらあら、少し前までなら意味もわからずキョトンとしてたかをるちゃんが、こんなに照れちゃうなんて。かをるちゃんも大人になったのねえ。母代わりとして、ちょっと複雑かも」

「葉子さんったら――!」

「コラコラ、あんまりかをるちゃんを困らせるなよ? 葉子。いいかげんにしないと、うちの大事な戦力が倒れでもしたらどうするんだい」

 穏やかな声音で揃って後ろを振り返る。目が合った先で、苦笑を浮かべたおじさん――葉子さんのご主人で、このお店の店長さんである――が続けた。

「といっても、明日は休みを取ってもらわなきゃいけないんだけどね」

「え、お休み――? どうしてですか?」
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