抹茶な風に誘われて。~番外編集~
 男性が女性にお菓子やプレゼントと合わせてお花を贈ったりするのはもう少し先のホワイトデーだから、明日のバレンタインは本来なら多忙ではない。

 でもチョコレート会社の思惑と同じように、お花屋さんだってあれやこれやの理由付きでお花の贈り物を薦めるから、やっぱりいつもよりは売れ行きも伸びたりするのだ。だから、張り切って働くつもりでいた。静さんにも、お店が終わってからプレゼント(まだ中味は未定だけれど)を渡す予定で――。

「花枝さん知ってるだろう? 葉子のお姉さんの」

「あ、はい。時々遊びに見えますから――」

「そうそう、その花枝姉さんが久々に花屋の手伝いしたいって言うもんだから、一日バイト頼んだのよ」

「え? バイト……?」

「あら、かをるちゃんがうちに来てくれるまでは、忙しい時たまにお願いしたりしてたのよ? あそこはうちと違って子供はいるけど、二人とも寮に入ってて普段はいないの。だから暇してるんですって」

「は、はあ――」

 おじさんと葉子さんに交互に説明されても、まだ首を傾げていたら、携帯がポケットでブルブル震えだした。あわてて確認した相手は、つい先ほどまで話題の中心だった人物で――。

「開店準備も終わったし、いいわよ。ゆっくり話してらっしゃい」

 ニッコリ笑って手を振ってくれた葉子さんにお礼を言って、おじさんにも頭を下げる。小走りで店の奥へと入りながら、待たせないようにと通話ボタンを押す。ちょうど口を開く直前に、背後で葉子さんの声が聞こえた。

「だから明日は何も気にせずデートしてらっしゃいな。あなたの素敵な静さんにもよろしく言ってね~」

 はっと振り返って、笑顔で並ぶ二人と目が合う。何事もなかったかのように背を向け、ガラガラと半分閉めたままだったシャッターを開けるおじさんと葉子さん。

 優しい家族に感謝しながら、私は電話に出たのだった。
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