抹茶な風に誘われて。~番外編集~
 そこまで言って、堪え切れなかった涙がぽたりと箱を持ったままだった自分の手の甲に落ちた。

 やっぱりバレンタインにはチョコレートをあげたい、という気持ちから選んだレシピに、少しでも静さんの好みに沿うように、と合わせた和柄の包装紙。緑のそこに咲いた鮮やかな牡丹にまで、顔をあわせられない気がしてしまう。

「へえ、結構うまいもんだな」

 いきなり手を出した静さんが、溶けたチョコのひとかけらをパクリと口に含んで呟く。意外な出来事に目を見開いたら、笑った静さんが私の頬を片手で包んだ。

 もう片方の手で涙の跡を拭いてもらう間、深いグレーの瞳に魅せられる。いつも私の小さな不安ごと包み込んで、喜びに変えてくれる唯一の瞳に――。

「形なんてどうでもいい。お前が俺のために用意してくれたものなら――なんだって味は格別だ」

 洋菓子が苦手なはずの、大人な静さん。本音と建前を使い分ける人たちが大嫌いで、不必要な敬語もお世辞も避けてる静さん。それなのに、私のためなら優しい嘘を付いてくれる――世界で一番大好きな人。

 こみ上げる涙を唇で拭って、いたずらっぽい笑みを向けてくる。そして、思いついたように、一言。

「ああ、そうか――これに隠し味があれば、完璧だな」

「隠し味……?」

 何のことだろうと首を傾げると、笑った静さんが一瞬で距離を詰めた。いつもと違うシャツの感触の奥には、いつも通りの温かな胸。そこにおさめられて、あっという間に唇を奪われた。

「どんな贈り物にも優る味だ。やみつきになって……何度でも味わいたくなる」

 笑顔を消して、もう一度。何度目かもわからなくなるほどの口付けは、どんどん甘く、熱いものになっていく。

 息が乱れて、ソファに倒れこんだ私を見つめて、静さんは今日一番嬉しそうな微笑を浮かべた。
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