抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「おい君、ちょっと」

 呼びかけられて、ヤバイ、と思う。逃げなきゃ――そう考えるのに、まださっきのショックを引きずっていた体はすぐに動いてくれなかった。

「その制服、高校生だろう。一体こんなところで何をしてるんだね。名前と学校名を――」

 いかつい顔で近づいてきて、がしっと腕を掴んでくる人物。体型こそ違う二人組とはいえ、どちらにも似た雰囲気が漂っていて、その制服に負けず劣らず威張り散らしている。

「は、離してください……別に何も……今から帰るところで」

 言っても、『はい、そうですか』なんてすんなり離してくれないことはわかっていた。頭の中で舌打ちする。こうなってしまえば後の展開はわかりきっているからだ。

 もうあんなクソオヤジの名前出したりしたくない。やっと、自分の足で立ってやっていこうって思い始めたところなのに――。

「そうはいかん。ちゃんと名前を言いなさい! 事と次第によっては、親に来てもらわんと――」

「やっ……離してっ」

 叫んだ瞬間、いくら振り切ろうとしても振り切れなかった太い腕が、突然離れたことに気づいた。いや、離れたんじゃない。離されたんだ――。

 驚きは言葉にならなくて、ただ見上げるしかできない。

「おまわりさん、離してやってよ」

 この状況に一番似合わないヘラヘラした笑顔でそう言って、制服の腕を掴んでいる――そんなこと言いながらもう無理に離させている状態で――男が続ける。

「こいつなら、別にヤバイことしてないから」

「なっ、何だお前は……ホストなんかが言うことを、信用できると思ってんのか?」

「そうだ! お前には関係ないだろう!」

 予想外な人物に止めに入られたからなのか、それとも単にそういう職業の人間を嫌っているだけなのか、二人組の警察官はいきり立つ。

 けれどそんな言葉にさえも眉一つひそめることなく、お気楽な笑みをはりつけたままの顔でいかにも軽そうなホストは答えたのだ。
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