抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「――で? なんであたしがあんたの妹なのよ」

 明るい駅にたどり着いて、どちらからともなく手を離すと、たちまち普段のあたしに舞い戻る。向こうもさっきの真顔はどこへやら、ヘラヘラ笑って振り返った。

「そんなこと言いながら、結構ノリノリだったじゃん。意外と才能あるんかもなー。チョコ売るより、メイド喫茶でそっち系の妹でやったほうが稼ぎいいかもよ?」

「そっ、そっち系ってどういう……っていうか、何であんたが知ってるのよ」

 あんまりさらっと言われたもんだから、聞き流しそうになった言葉。それが先ほどまで街頭に立ち続けていたバイトのことだと思い至って、あせった。

 ひらひらぶりぶりのバイトの制服をこんなヤツに見られたとしたら、屈辱でしかないのだから。

「だってかをるちゃんから聞いたから。お前が俺の店の近くで今日バイトだからって」

「じゃあ……チョコあたしが預かったって話も?」

 あっさり頷かれて、なぜか頬に朱が散る。だって知ってたなら――あたしがあんな苦労をする必要もなかったってことで。それは同時に、例のラブシーンなんて目撃しなくてよかったってことに――。って、なんでここでズーンと気持ちが重くなるわけ?

 ムシャクシャして睨みつけたあたしに、亀元は「あっでもそれは、さっき携帯のメール見てから知ったんだけどさー」とあっけらかんと笑ってみせた。

「さっきって……」

「だからー、お前が俺の熱烈キスシーン見て、飛び出して行った後にってこと」

 ニヤニヤ笑いはそのままに、瞳だけ少し細めた亀元が言う。頬の熱は余計に高まって、ポケットに手を突っ込んだ余裕な立ち姿に腹が立った。

「だっ、誰も飛び出してなんか――」

「じゃあ何で走って逃げちゃうわけ? なんか俺の目にはスゲーショック受けてたみたいに見えたけど? もしかしてお前さー、アレに嫉妬したりとか……」

「し、嫉妬なんてするわけないでしょ!? なっ、なんであたしがあんたみたいにバカで間抜けで万年ダメダメの最下位の、最低ホストのラブシーンなんかにショック受けなきゃいけないのよっ!」

 思いきり叫んで、駅の構内で一瞬注目を浴びてしまう。けれど、まだまだバレンタイン真っ盛りの午後九時半。行きかう人たちの目はまたすぐにそらされて、女子高生といかにもなホストの口げんかになんて、誰も注意を払わないことに感謝した。
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