抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「……へーえ。バカで間抜けで万年ダメダメ最下位の、最低ホストかー。ま、事実だけどな」

「あ……」

 口を押さえても、時既に遅し。いつも売り言葉に買い言葉で罵ってる時には全く気にしないのに、なぜだか胸がちくりと痛んだ。

 だってこいつが――なんか傷ついたみたいな顔するから。

「じゃあ別に説明の必要もないだろうけどー、一応言っとくわ。さっき俺がキスしてた――って言っても、ちょっと酔いつぶれてた間にキスされてたんだけど――相手、あれ、男だから」

 じゃ、そういうことで、とそのまま背中を向けて歩き出そうとする亀元を、呆然と見つめる。

「え、お、男……?」

「そ。まあ、体は女になってはいるし、ホルモン注射で声も見た目もわかんねえだろうけど、やっぱ俺的にはそうとしか思えねえっつうか。熱烈アタックされても困るだけで……ってまあ、そういうこと。俺がバレンタインなのに本命チョコの一つももらえねえし、どっかの誰かさんにはわけもわからず殴られるしで、ふてくされて飲んでたとこ、慰められていつの間にかああなっちゃったわけ」

 振り向いて、手持ち無沙汰らしい腕を伸ばし、少し唇をとがらせて呟く様子はなんだかいつもと違って――結構普通の『オトコノコ』に見えた。

 ――男。そっか、男か……。

 脳裏でフラッシュバックされるたびになぜかズキリと棘を差し込んできた面影が、急に色あせる。変な色恋沙汰なんてないのがわかった途端、胸の痛みも変な重さも消えていく。

 ――何よあたし。まるで、喜んでるみたいじゃん。

 自分で自分につっこみつつ、そんなわけはないとポーカーフェイスを気取る。でも、やっぱりあたしは静先生みたいに鉄壁の無表情なんてできない。
 
 やっぱり綻びは顔に出て、いつのまにか口元がゆるんでいるのに、自分でも気づいていたけれど――それでもあたしはいつもみたいに声をかけた。
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