ハレゾラ


「ちゃんと話聞いてくれたら、返してあげる」


そう言う彼の顔は、怒っているようだった。
怒ってるのはこっちなのに、意味が分からない。イラッとした。
あのカバンの中には、私の生活に必要なものがほとんど入っている。
本当にいらない訳ではなかったが、今の私の気持ちが口を勝手に動かした。


「じゃあ、いらない」


「ほんと頑固。そーゆーの可愛いくないよ」


「別に私が可愛いだろうが可愛くなかろうが、翔平くんには関係ないじゃない」


彼の顔が一層険しいものになった。
もう駄目だ……。
売り言葉に買い言葉。何を言っても反論の言葉しか出てきそうにない。
これ以上彼を怒らせたくなかった。それに、瞳からこぼれ落ちそうな涙を堪えて
いるのも限界に近そうだった。ここで彼に涙を見られるのは、何が何でも避けた
い。
私は小さく息を吐き、心を落ち着かせた。
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