ハレゾラ
「咲さん?」
すぐに、その声の持ち主に見当がつく。
しまった……。
後ろのことは、まったく意識していなかった。
私はそのまま振り返らず、歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ。話をさせて」
そこから逃げるように、足早に歩く。彼もそれについて来る。
「今は話したくない」
「なあっ、こっち向けってばっ!」
私の肩を乱暴に掴み、グッと向きを変えようとした。
「痛いっ。離して」
そう言って手を大きく振った瞬間に、カバンが手から離れて飛んでいってし
まった。慌てて取りに行こうとしたが、彼に先を越されてしまう。