ハレゾラ
「あ、ありがとう」
そう言って助手席に座る。彼はドアを閉めると、すぐに運転席に戻った。
今、この狭い空間の中に二人っきりと思ったら、急にとてつもなく照れくさくなってきてしまった。
俯いたまま、顔を上げられない。
(どうした私? もうそんな事する歳じゃないでしょっ!!)
1人でモジモジしていたら、彼がいきなり私の右手を握ってきた。
「咲さん。今から照れてたら、このあとずっと照れる事になってしまうと思うけど、大丈夫?」
私はパッと顔を上げ、彼の方を見る。
(大丈夫って? このあと何をするつもり!?)
そう言おうとして、でも言えなくて、顔を真っ赤にしながら口をパクパクしていると、彼が嬉しそうに私の顔を覗きこんできた。
「あぁ~、何かやらしいこと想像したでしょう、咲さん」
なんですとぉ~~~っ! や、やらしいことってっ!!
そりゃあ、私だって今まで付き合った人は何人かいるし、処女じゃないし、乙女ぶるつもりはないけれど……。
初めて食事する人に欲情するほど、乾いた女じゃな~いっ!!
握られたままの右手を、大きく振り払った。