私の片想い事情 【完】

「みなみは優しいなぁ」

「隼人は勝手だね」


隼人の呟きに冷たく答えてやる。


まだクスクス笑う隼人は、うろんな目で私を見つめる。


そして、隼人の首筋にタオルを当てていた私の腕を掴んだかと思うと、急に自分の胸へと抱き寄せた。


あ、こんなこと前にあったな、と冷静に考えていると、隼人の腕が背中に回り、ぎゅっと抱きしめられた。


「は、は、隼人?」


前回とは違う強い抱擁に、これは危険かも、と警告音が鳴る。


一度冷えた熱が一気にぶり返し、身体がまた逆上せたようになる。


隼人は完全に酔っている。これは非常に酔っている。


「みなみ、また静香さんのバスソルト使ったの?」


首筋に顔を埋めた隼人がくんくんと匂いをかぎながら聞いてくる。


鼻先と吐息が首筋に当たり、私は甘い吐息とともに肩を揺らす。


「う、うん。隼人もあの香り好きでしょ?」


「ああ。この家ではみなみの定番になってるな。風呂入った後のせいか今日はカズの匂いがしない」


私の心臓がドクンと跳ねたのは、首筋を這う隼人の唇のせいじゃないはず。


「は、隼人、何言ってるの?」


私はこの酔っ払いに何とか冷静に対応しようと、その腕から逃れるように身を捩る。




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