私の片想い事情 【完】
おずおずとビールを差し出すと、亜紀さんは、座りなさい、と綺麗な指でトントンとテーブル叩く。
「ハイ……」
「みなみはバカね」
「はい?」
「どうしようもないバカ」
「あ、亜紀さん?」
「その上ドМ。尽くすことに喜び見出す、典型的な都合のいい女」
「ひどいです……」
「隼人の女性不信が酷くなったのも、みなみのその過保護ぶりがひどくなったのも三年前からよね?」
亜紀さんの指摘に、目を見開いて驚いていると、亜紀さんはふっと笑った。
「隼人がすごく荒れていたでしょ?ここのアルバイトもすっぽかしていたし」
そうだった、彼女は隼人が荒れていた時を知っている。
隼人は大学時代、瀧川君や菅波君のようにアルバイトで臨時講師をしていた。そしてその研修をしていたのが亜紀さん。
意外に、私と隼人と亜紀さんの付き合いは長い。亜紀さんも幼少のころからこのスイミングスクールに通っていて、私たちと同じように学生コーチを経て、インストラクターになっている。
実は彼女は、JOで、背泳ぎの部門で入賞したことがあるらしい。