私の片想い事情 【完】
あーあ。
彼氏ナシ、経験ナシ。それなのに、意味のないキスマークを一生懸命隠す私って……
情けない、と泣きたくなった。
ずーんとした気分で更衣室を出ると、廊下で瀧川君が待っていた。
「みなみさん、おはよ」
相変わらず爽やかでかわいいスマイルを送りながら、私の方へと歩み寄ってくる。
「おはよ、瀧川君。今日から忙しくなるから、よろしくね?」
「はい。できる限りサポートしますよ」
屈託なく笑う彼に、チクリと胸が痛む。
「そう言えば、真さんがみなみさん担当の高学年クラスに入るって?」
瀧川君がさっきまでの爽やかスマイルを崩し、嫌そう顔して聞いてきた。
真さんとは、鬼マネージャーのことで、フルネームを笠原真一(かさはらしんいち)という。
瀧川君は、ここのスイミングスクール出身ではなかったけど、マネージャーとは顔見知りらしく、彼のことを「真さん」と呼んでいる。
「俺、今日帰ろうかなぁ」
珍しく瀧川君が後ろ向きモードだ。
「何、瀧川君もマネージャーが苦手なの?事務所では普通に話しているのに」
「苦手というか、プールでは……」
瀧川君は説明のつかない表情で、キリの悪そうに言葉を濁す。