理想の瞳を持つオトコ ~side·彩~
「はぁ。はぁ。はぁ」

息を調えながら、ズルリと、私の中から出ていくのを感じ、

「シャワー浴びてくる」

そのまま、浴室へ向かう洋介の背中を見送る。


『…ビデしなきゃ』

落ちたパンティーを拾って、重い躰を引きずるように、のろのろとトイレへ向かう。


少しだけ下腹部に力を入れ、彼の残骸を吐き出して、ビデで洗浄する。


「痛っ」

洗浄水が染みる、ヒリヒリとした下半身の痛みは、恐らく擦り傷になっているんだろう。


「…はぁ」

また一つ、ため息をつく。


洋介に抱かれて、本気で感じたコトは…

一度もない。


キスは安心出来て好きだし、『キモチイイ』と思える。


胸だって、触られるのは嫌いじゃない。


けれど、挿入はどうしても苦手で…

ひたすら痛みに耐え、早く終わるのを、祈るだけの時間になってしまう。


躰を重ねるコトの意味さえ分からなくなるほどの、苦痛でしかない時間を耐え続けていれば…

いつかは、雑誌の見出しで見かけたような、『快感』や『性の喜び』が、どんなものだか分かるようになるの?


そうしたら、もっと…

洋介との関係性も変わったり、今よりもっと彼を好きになれるのかしら?


誰にも聞けない、その答えは、自分で経験するしかないのだけれど…

洋介以外の男性を知らない私にとって、感情も、行為そのものも、世間一般の基準がどんなだか分からないし、洋介とのコトが全てだ。


でも、世の中の大半の人が、
『キモチイイ』
と、感じているコトなのだとしたら…

やっぱり、私の体に問題があるんだと思う。


そう、やっぱり…
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