-Vermillion-
#02「The Fool」逆位置 – 愚行



-AVRIL 22 (Dim)-



「真朱…どうしよう…私…」

「朱乃……」

「見ちゃったの…現場を…」

「朱乃。
 とりあえず警察に事情を話そう。
 何か手掛かりになるかも知れない。」

 
味もよく分からないまま

遅い朝食を食べ終わると、

真朱のバイクで警察に向かった。

 
つい五年程前まで

全くの田舎だった余山市は、

まだ発展途上だ。

五つの町から成り立つ

ひし形をした小さな市で、

他市と繋がる中央線の

「中央余山駅」がある五丁目は、

センターと呼ばれ

市内で一番栄えている。


その西側に、余山警察署がある。

警察署に到着したのは、

午後二時頃だった。


正面玄関の前に立って

私は真朱の手を握る。

上手く話せるだろうか……


煙草の煙が充満する殺風景な部屋で、

刑事と向かい合って座った。

短髪で眉間に皺を寄せた、

角ばった輪郭の若い男が、

少し鋭い目付きで私を見ている。

 
「昨晩九時頃、
 買い物をしにセブンマート
 余山東公園店へ向かう途中、
 余山公園内のベンチで
 若い女性が座っているのが見えた。
 そして約二十分後に店を出た時、
 その女性がまだ座っているのを
 確認した。
 間違いないかい?」
 
「はい…そのまま、見ていたら…」

「彼女の鞄がベンチから落ちたけど、
 全く拾う様子がなかったんだね?」

「なので、公園に入って、
 声を掛けたんです…」

「声を掛けた直後、
 女性はベンチから崩れ落ち、
 背後から巨大な狗が現れ、
 怖くなって一目散に逃げた、かぁ。」

刑事は頭を掻くと、机に手を付いた。

「その女性が、
 被害者の南 理香である
 という確証はあるのかい?」

「それは、えっと…」

「例えば顔を見たとかは?」

「彼女ずっと、俯いていたので…
 でも背格好は、似ています…」
 
刑事は傍にいた男に目配せをすると、
こちらに向き直った。

「そうか、今日はご苦労でした。
 もう帰っていいよ、
 後日また連絡するから。」

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