-Vermillion-

――漆黒の闇の中を
  一筋の光が照らしている。
  その光の先で黒いアゲハ蝶が、
  道案内をするかの様に舞う。
  そっと手を伸ばすと
  蝶は指先に止まり、
  ゆっくりと羽を動かした。  
 
  目覚めたのですね、我が主様よ。
  ならば私は、
  貴女にお仕えするのみ……――



-AVRIL 22 (Dim)-



小鳥の鳴き声で目を覚ますと、

部屋のベッドで横になっていた。

ゆっくり起き上がった時、

ベッドに伏せ寝している

真朱の手に触れた。

「真朱…」

私が動いて真朱は目を覚ますと、

不安そうに私を見た。


「起きた?
 昨日リビングで倒れてから、
 丸一日寝てたんだよ。」

「そう…もう、大丈夫…」

「良かった。
 今日は一日ゆっくり休んで、
 また学校に行けるようにな。」


下の階へ降りる真朱の背中を見送ると、

静かにカーテンを開けた。



雲はとても高く、

空は透き通る様に澄んでいる。

「今日も、お天気だ。」



リビングへ降りると、

真朱はキッチンで朝食を作っていた。

コーヒーのいい香りが漂ってくる。

私はテレビを付けた。


「朱乃、
 スクランブルエッグ出来たぞ。
 食べられるか?」

「うん、ありがとう…」


真朱がお皿を持って来るのが、

目の端に少し見えた。

いつもなら朝食に気を取られるけど、

その時私の頭の中は、

ニュースの内容で埋め尽くされていた。



信じたくない言葉が、はっきりと聞こえて来る。



(本日午前四時頃、
 余山市三丁目の線路沿いで
 女性の変死体が発見されました。
 遺体は、二丁目にお住いの
 南 理香さん(25)である事が判明。
 連続殺人事件の三人目の被害者――)



力の抜けた掌から

滑り落ちたリモコンが、

大袈裟な音を立てた。



「朱乃、どうした?」

「この人なの…」

「えっ……?」

「あの日、私が見た、女の人…」



アナウンサーが

ひたすら口を動かしているのを、

私も真朱もただ見つめた。


残酷な事実をただ淡々と伝える、その画面を。


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