-Vermillion-

 暗闇を抜けると、白い薔薇の咲き乱れた、黒い世界が広がっていた。
 ——これが、魔界……?

-驚きましたか、主様。
 抵抗が少ない様に、以前から何度か似た様な空間を用意したのですが。

 隣を見上げると、真朱の姿をした美影が立っていた。
「ううん、驚いてない…ただ、少し意外で…」

 美影に連れられてひび割れた地面を歩く。
 茂る草木はどれも黒く、咲き乱れる花は白いものばかりだ。
 その中であちこちに咲き誇る白い薔薇は、とても目を引いた。

-綺麗でしょう?白薔薇は、この世界の国花の様なものですので。
「そうなの…?とても、綺麗…」

 私は思わず見入ってしまった。本当に目眩がするほど美しい世界だ。

 ここが魔界なら、今までいた世界は何と呼べばいいのだろう?
 上辺を撫でる人々、自己中心的な思考、理不尽な秩序。
 なんて、醜い——世界。


 遠くに小さく見える建物の塔は、歩いても歩いてもその姿を変えない。
 どれくらい遠くににあって、どれくらい大きいのかも分からない。
 何て不思議なんだろう。

 何時間歩いたか……
 やっとの思いで辿り着いた城は大きく立派で、繊細な造りをしていた。

 あちこちに彫られた魔物や魔神の彫刻、
 そして正面には『死者の書』が色鮮やかに描かれている。
 いや、色鮮やかにという表現は間違っているかもしれない。
 モノクロの世界に唯一存在する他色、というのが妥当だろう。

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