state of LOVE
空腹感を増長させる匂いと、脇腹にドンッとかかる圧力に重い瞼をゆっくりと持ち上げる。最小限の視界に姿を現した圧力の主は、ペチペチと俺の頬を叩きながら上機嫌だった。

「とーちゃ!」
「んー…」
「とーちゃ!」
「美緒、ダメですよ。もう少し寝かせてあげてください」
「とーちゃ!」
「美緒。とーちゃんはねんねです」
「むー!」

ふと圧迫感から解放され、再び心地好い眠りの淵へと誘われる。柔らかな光と、美味しそうな匂い。そして、鈴の音のような音。

そのどれもが愛おしくて、大切で。瞼を閉じたまま手を伸ばすと、そっと柔らかなもので包まれた。

「まだ時間はありますよ」
「んー」
「起きるなら、朝ご飯用意しますけど?」
「いい。ここに居て」

そのまま手を引くと、クスッと笑い声が返ってくる。甘えたいのは俺も同じ。ずっと…そう、幼い頃からずっと。

「セナ」
「はい?」
「傍に居て」
「ここに居ますよ」
「ずっと。死ぬまでずっと」
「死んだら終わりですか?」

柔らかな音と、柔らかな感触。脇腹に再び感じる圧迫感は取り敢えずスルーとして、こんな穏やかな朝は久しぶりだ。

「死んでもずっと傍にいますよ。じゃなきゃ、死んだ途端違う女のところに行ってしまいそうですから」
「信用ねーな」
「自業自得です」

ちゅっと瞼に口づけられそれを押し上げると、昨晩とはうって変わって穏やかな表情の聖奈が、ちーちゃんによく似た顔でにっこりと笑っていた。

「昨日はすみませんでした」
「ん?」
「今日、レベッカを呼んでもらえませんか?きちんと謝りたいので」
「別に気にしてねーと思うけど」
「それじゃセナの気が済まないんです。出来れば愛里さんも呼んでください。初対面なのに、とても失礼なことをしてしまいましたから」
「はいはい。わかりました」

ポケットに押し込んでいたままの携帯を取り出して渡すと、時間も確認せずにコールする。いつでも元気なブロンドガールは、時間など関係なくいつでも元気だった。
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