state of LOVE
「だー」


有難いことに、そこは現実世界だった。

自分の一撃で目を覚まして俺を満足げに見下ろしている美緒は、ハルさんにソックリなわけはなく、右目が俺とお揃いなわけもなく。

さようなら、夢。
ありがとう、現実。

と、夢の割に冷酷だった世界を恨む。

「おはよ、美緒」
「だー」

だーのついでにパチンッ。

何の嫌がらせだ。と体を起こし、不満げに両手を振り回している美緒を抱き上げる。

「叩くなっつってんの。結構痛いのよ、それ」
「だー」

何とか会話を試みるも、やはり不成立。寝ぼけた頭を軽く振り、美緒を抱えて部屋を出る。

「おはよーさん」
「あぁ。おはようございます」

階段を下りる俺達を迎えてくれたのは、優雅にコーヒーカップを傾けながらタバコを吹かす義理の父になる予定の人だった。そこに居るはずのあとの二人は、昨日別れた時の格好のままソファで横になっている。

「おはようございます」
「おはよ」
「朝食、食べますか?」
「おぉ」
「じゃあ顔を洗ってきてください」

自宅で愛用しているケイさん作のライラック色のエプロンからメーシー愛用の藤色のエプロンにチェンジしてキッチンに立つ聖奈は、マリーよりも数倍…いや、数十倍優秀な主婦で。三木家の教育方針に感謝だ。と思いながら、美緒をメーシーの腹の上に置いて洗面所を目指した。

何だったんだ、あの夢は。どうせなら、ちーちゃんに似た女の子が良かった。そうボヤいたものの、それはそれで大変な気がする。主に聖奈が。

それ以前に、あの瞳の色はいただけない。が、二人子供が産まれればきっとどちらかはそうなるだろう。そんな確信めいた思いが俺の中にはあった。

人生は妥協と諦めの連続だ。と、佐野家の長男としてあるまじき意思を主張してみる。我が家の…主に母親であるマリーの教育方針は、言うまでもなく「猪突猛進」だ。
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