state of LOVE
「ハルさん、浮気するようなタイプじゃねーよな?」
「天地がひっくり返ってもありませんね。はるはちーちゃん命です」
「よな。メーシーと一緒にしたら失礼だな」
「君のその発言は、俺に対しての失礼には当たらない?」
「ん?自業自得だろ」

突如割って入って来たメーシーにベッと舌を出し、ささやかな抵抗を試みる。どうやらご機嫌の大魔王は、ふふっといつものように軽く笑って許してくれた。

「実際どうするつもりなの?」
「何が?」
「美緒ちゃん。引き取っても君達じゃ育てられないだろ?二人とも学生なんだし」
「保育園とか託児所とかあるだろ。昼間はそこに預けてればいいじゃん」
「可哀相に。麻理子に頼んでみれば?」
「えっ。ヤダよ」
「何でだよ」
「あの人子育て出来そうにねーもん」

事実、俺を育てたのはメーシーで、レイを育てたのはマリーにソックリの祖母だと聞いた。小学生になった頃にはレイはもう俺にべったりだったし、マリーが子育てをしている姿など遠い記憶の片隅に追いやられてしまって思い出せない。

「料理もまともに作れねーのに、美緒預けたって昼メシも食わせらんねーじゃん」
「お弁当持たせるとかは?」
「ダメダメ。ムリムリ」
「そんな力一杯拒否しなくても…」

俺を嗜めようとする聖奈の額をコツンと指先で弾き、おむつを替えてもらってご機嫌になった美緒に手を伸ばす。同じように両手を広げた美緒が腕の中に収まるまで数秒。ふにっと柔らかな感触が漸く戻ってきて頬が緩む。


「You are my candy」


ギュッと美緒を抱いてそう言った俺に、その言葉の意味を知っているメーシーだけが「あらら」と笑った。

甘く、幸せな気分に浸れる魔法の一粒。甘えん坊の妹がぐずる度に、こうして抱いてキャンディを一粒口に入れてやった。その甘い匂いと腕の中から感じる温かさで、俺は幸せに浸れる。

「メーシー、何を言っても無駄ですよ。マナはもう決めたんですから」
「頑固な息子だ」
「セナも手を焼いているところです」

そう言って笑い合う二人の声も、呆れたようなハルさんの目も、いまいち状況が飲み込めていないだろうちーちゃんの不思議顔も、何も気にならなかった。

約束したからだ。と自分に言い聞かせ、ハルさん寄りの人間でないことを祈る。聖奈と付き合っている時点でその気は完全に否定は出来ないだろうけれど、そこは最後まで全力で抵抗させてもらうとしよう。

そう、男の意地にかけて。
< 78 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop