state of LOVE
病室でうだうだと過ごし、さすがにレベッカが怒っているだろうな…と思ったのが16時頃。事務所に電話をしてくるからと携帯片手に病室を抜け出し、ふと新生児室の前で足を止めた。


「すみません。三木の身内なんですが、赤ん坊は…」


ちょうど近くを通りかかった看護師さんに声をかけると、その人は困ったような顔をしてガラスの向こう側の最奥を指した。

「ガラス越しならお会いできますけど、運んで来ましょうか?」
「え…あぁ、はい」
「今少し免疫力が弱まってまして、お外には出れないんですよ」
「あぁ…そうですか」

ハルさんのあの曇った表情の原因はこれか。と、聞こえない程度のため息を吐いて陽彩を待つ。

頑丈なガラスの向こう側の、そのまたガラス越し。その小さな体に色んなチューブや機械を付けられた陽彩は、難しそうな顔をして眠っていた。

「わー…こりゃちーちゃんには見せらんねーわ」
「やろ」
「わっ。いたんですか」
「おぉ」

振り返ると、息子と同じく難しそうな表情をしたハルさん。一気に老けこんだと思ったのは、傷付けるだろうと思って黙っておいた。

「大丈夫なんですか?」
「まぁ、大丈夫らしいけどな」
「どこか悪かったりとか?」
「いや。今んところは」

本当に、ただ単に外に慣れていないだけだ。と、あくまでもそれを貫く気らしい。

危ない状態ではなさそうだけれど、健康そうでもない。敢えてツッコまなかったのは、俺なりの精一杯の優しさだ。

「退院、どれくらい延びそうなんですか?」
「半月…いや、一ヶ月は見といた方がええかもな」
「そんなに?」
「セナもそんなもんやったわ。まぁ、あいつはもっと危なかったけどな」

ハルさんの言葉に目を開いて驚きの意思を表示すると、はぁ…とちーちゃんの前では聞けないため息が聞こえてきた。

「健康優良児だと思ってました」
「まぁ、退院してからは大きな病気もせんと育ったけどな」
「ここに居た間は?」
「千彩が無事や思うたら今度はこっちか!って感じやったな。俺の寿命が縮んだ」
「大変ですね、パパも」
「せやで。もう子供はええわ」
「でしょうね」

でも、あと一人か二人は増えるでしょ?と小さく尋ねた俺に、ハルさんはガックリと肩を落として項垂れる。

そして、願ってもない提案をされた。
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