state of LOVE
「無理すんな」
「してませんよ」
「うちの娘は金に拘るような女とちゃうぞ。何不自由なく育てたから、逆に金には無頓着や」
「ですね。俺もそうでしたから、特に金に執着はありません」
「のわりには仕事詰め過ぎちゃうか?」
「仕方ないですよ。俺は「MEIJIの息子」なんですから」

NYで暮らしていた頃は、そんなことは考えもしなかった。学校でも、バイトをしていたデザイン事務所でも、俺は俺。俺を「MEIJIの息子」として扱うのは、マリーくらいのものだった。

「事務所移るか?」
「JAG学院にいるのに?」
「そうやなくて。別に青山やなくても、都内に何箇所もあるぞ」
「いいっすよ、青山で」
「ほんでも気になるんちゃうんか?」
「頑張ります。せめて独り立ち出来るくらいまで」

俺が仕事を任されるのは、「MEIJIの息子」で、未だに最前線でトップを張り続けるこの三人のチームに属しているから。そんなことは、バイトを始めた当初からわかっていた。

逃げることは簡単だった。けれど、悔しいからそんなことはしたくない。


「俺はメーシーを超えます」
「あー…俺の弟みたいなこと言うとるな」
「そうなんですか?」
「俺の弟も、いつでもそんな調子やったわ。今や立派なミュージシャンやけどな」
「そう言えば、ケイさんが言ってましたよ」
「ん?」
「弟さんの奥さんって、ハルさんの元カノなんですってね」
「あー…あの阿呆はほんま…」

ゴンッとガラスに額をぶつけて、ハルさんは再び項垂れる。どんないきさつでそうなったのかは知らないけれど、モメなかったということはないだろう。寧ろ、修羅場を期待する。

「何か…ハルさんの周りって、そうゆう女の人が集まってません?」
「あー…そうかもな」
「きっと、皆ハルさんに相当惚れてるんでしょうね」
「面倒くさいこと言うなや」
「人間的に、って意味ですよ?じゃなきゃ、別れた男の親友や身内と結婚しようなんて思わないでしょ」
「まぁ…あれや。たまたま。廻り合わせっちゅーやつや」
「ツラくないんですか?」

別れた恋人に二度と会いたくないわけではないけれど、出来れば身内にはなりたくないというのが本音だ。気まずい上に何かとやり辛い。

俺の恋人があの「三木聖奈」なものだから、それは尚更。

「俺じゃ幸せにしてやれんかったからな」
「大人ですねー」
「もうアラフィフですから」
「アラフィフにして長男を授かったご気分は?」
「まぁ…幸せ、かな」
「あと一人か二人、頑張ってくださいよ、お義父さん」
「うわー…気が重い」

ガラス越しの陽彩を見つめながら、言葉とは裏腹にハルさんは嬉しそうで。そんな横顔を見ながら、俺達の子供と同学年の義理の兄弟が出来るかもしれないな…と気分は複雑だった。
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