state of LOVE

 最大の難関は最強の味方

結局泣き出した美緒に手を焼いた聖奈が限界を訴え、俺達だけ病院を出たのがそれから一時間ほど経った頃。

俺だけ事務所に戻るわけにもいかず、レベッカに謝りの電話を入れてから自分達の家へ戻るべく車を走らせ30分と少し。ちょうど家の前の曲がり角を曲がった時だった。


「マナ、お隣の家…」


不安げな聖奈の声に、目に入った人物が美緒の母親でないと判断がついた。

「二人でここに居ろ」
「え?」
「あの女が安全だとは限らない」

再びチャイルドシートに自由を奪われ、泣かずともぶぅっとふくれっ面をした美緒を開放し、聖奈の腕の中へ預ける。そのまま二人を車内に残してロックをかけると、隣家の玄関の扉を派手に打ち鳴らす女の後ろに立った。

「すみません」
「きゃっ!えっ!?何!?」
「驚かせてすみません。隣の家の佐野と申します」

とびきりよそ行きの笑顔を作り声を掛けると、その女は慌てて手を止めてしなを作り始めた。年は…志保さんくらいだろうか。メーシー達と一括りにしなかったのは、明らかに見た目年齢に差があるからだ。

「ごめんなさーい。煩くして」
「いえ。お隣、昨日から留守ですけど」
「そぉなの!?どこに行ったか知らない?」
「さぁ。僕が聞きたいくらいなんで」

メーシーよろしくにっこりと笑うと、その人は「ふぅん」と上から下まで俺を視線でなぞり、嫌な笑みを浮かべた。

「ボク、いくつ?」
「え?18…ですが」
「高校生?」
「いえ。専門学校生です」
「ふぅん」
「何か?」
「ボクもユリちゃんの彼氏なのかなぁと思って」

何と失礼な!と、間違いなく聖奈がこの場に居たならば、両手を握り締めて叫んでいたに違いない。

けれど、幸い聖奈は美緒と車の中にいるわけで。首を傾げる俺に釣られ、その人も同じように首を傾げた。

「ユリさんってゆうんですね、お隣さん」
「あら?知らなかった?」
「今知りました。残念ながら僕とユリさんはそういった関係ではないですよ」
「そっかぁ。残念。お金だけでも返してもらおうと思ったのに」
「お金?」
「そっ。店に借金してとんずら。ホントいい度胸してるわ」
「あー…そうでしたか」
「戻って来たら連絡してもらえない?これ」

そう言ってその人が差し出した名刺には、何とも不吉な名前が書かれていた。

「まりこ…さん」
「そうよ。私まりこってゆーの。よろしくね」
「あぁ…はい」

極力呼びたくない名前だな…などと思いながらそれを受け取り、ジーンズのポケットに押し込む。

家の中に入ったら、出来る限り目に入らない場所に保管しようと決めて。
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