愛の囁きを[短篇]




好きじゃないなら抱きしめないで。
思わせぶりな態度はやめて。






「…壱は、壱は誰にでもそんなことするんだよね?」

「…は?」






私の手を掴んでいる壱の手に力が加わった。





「…私は他の子と違うから。嬉しくないよ、そんなことされても。」

「意味分かんねぇんだけど。」





意味分からない?
私も分からないよ、壱のことが。




少し怒った口調で言われた言葉。













その瞬間。
私の中で張っていた糸が切れた。
















「私は、辛いんだよ?好きでもないくせにこうやって抱きしめられて、涙を拭かれて。…あの日だって。ただの遊びのくせに。」




言わないでいようと思った。
心に秘めていた全てが一瞬にして曝け出される。




壱の手によって掬われた涙。
それはまた私の目から流れた。




< 18 / 23 >

この作品をシェア

pagetop