pierce,prince
スタンドマイクを持ったアオイは
一度上を見上げてから
流れるメロディに歌をのせた。
その歌声に会場は
甘い悲鳴にあふれる。
「アオイくーん…」
「かっこよすぎる…」
そのメロディにのせられた歌は
コンサートのコンセプトに
忠実に沿ってつくられたみたい。
切ない歌詞とアオイの切ない声が
会場内のすべての人を揺さぶる
『…葵』
やっぱり…どう強がっても
あたしには…
アオイは葵でしかないんだ。
この歌の終盤、
アオイが一際情をこめて
丁寧に歌い上げる。
そして───‥
アオイはあたしを見つめた。
アオイの瞳には歌に合わせ
悲しみが広がっていた。
見つめるうちにアオイの瞳は
悲しみを失い、
慈愛に満ちた瞳になる。
だめじゃん、葵───‥。
アオイのときは葵の感情を
どこかに置いてこなきゃ、ね。
だけど本音を言えば、
───‥うれしくて、舞い上がる
そんな自分が心にいる。