とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】
「サキって今オンナいねぇんだろ?」
「つってるけど、実際はいんだよね。たぶんそのコが「初恋の姫」」
「なんでわかんだよ?」
「ん?勘?」

ニヤリと笑いながらはぐらかすマキは、ぜってぇ何か掴んでる顔をしてる。コイツがこんな風に楽しそうにするトキは、他人事だと面白れぇコト、自分のコトだと嫌なコトを掴んでる証拠だ。

「何か知ってんだろ?」
「んー。知ってないコトもナイ」
「教えろよ」
「電話。オフの前の日、仕事終りの電話聞いたことある?」
「…あぁ、あるカモ」

この前のオフの前日、たまたま控え室に忘れ物を取りに行って聞いてしまった。ユーナだかミーナだかいう女相手に、晩飯のリクエストをしてただろうサキの甘ったるい声がまだ記憶に新しい。

「あれ、セフレか何かじゃねーの?」
「セフレ相手にあんな声出す?」
「出すんじゃね?ヤりてぇ盛りだし?」
「イヤイヤ、絶対ナイね。だって俺、サキがセフレの名前呼んでんの聞いたことねぇもん」

言われてみればそうかもしれない。「ねぇ」だの「ちょっと」だのって、オメェそれは人としてどうなんだよ?って呼び方しか聞いたことは無い。今まで気にも留めてなかったけれど、それがセフレと彼女の区別というヤツだったのだろうか。

「なぁ、マキそのコと会ったコトある?」
「ん?あるよ」
「んだよ。ちゃっかり知ってんじゃねーか。どんなコ?」
「何?興味あんの?」
「ちょっとダケ」

そう、ちょっとした興味本位。別に会ってどーしてやろうとか思ってたわけじゃねーし、俺もオンナいるし。ただ、サキがあれだけ自慢する「初恋の姫」がどんなイイ女なのか、それが知りたかった。

「今日メシ食う約束してっから、リキも来る?」
「メシ?サキのオンナじゃねぇの?」
「俺はただのオトモダチ」
「ホントかよ」

マキに誘われてホイホイ着いてく女だから、サキが言うほど純粋でもねぇんじゃねーか。って、コレがその時の俺の素直な感想。俺の中では「サキ→初恋の姫→マキ」って方程式が成り立ってて、ソコで興味は一気に失せた。

「やっぱヤメとく」
「何で?いいコよ?」
「何か…軽そう」
「会ってみりゃわかるって」

半ば強制的にこの後の予定を決められ、折角こぎつけてた彼女との約束も結局ドタキャン。後でどう謝ろうか考えてる間に、この後まだ収録の残ってるサキを置いて取材を終えたマキが俺を引き連れて約束の場所へと向かった。
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