女の隙間、男の作為


バレンシアガの中からiPhoneの着信音が聞こえる。
(相変わらずオリジナリティの欠けたメロディだ)

ディスプレイに表示される予想通りの名前。


「また遅刻?テレビ会議の時間忘れたのか?」

「ごめん!あと10分でオフィスだから待ってて!」

「えー愛してるって言ってくれたら許すー」

「あ、ごめん。太平洋の荒波の所為で音飛んだみたい」

「太平洋の所為かよ」

「もう切るね」

オフィスまではあと10分。
週末まではあと48時間。

時計を見ながらタンブラーの中身を胃に流し込んだ。



"Hi, Guys! We will all clear by the Happy Hour!!!"
(おはよー。今日もハッピーアワーまでに全部終わらせるよ!!)


YEAH!!

方々から飛んでくる大声援を背後にテレビ会議室に駆け込んだ。


「Sorry I'm late. Let's get started.」
(遅れてごめんなさい。始めましょうか)


正面の画面の向こうには大事な男の顔。

あのネクタイは見たことがないヤツだけれど、間違いなく某イギリスブランドのものだろう。


 
 さぁ今日もあたしらしくがんばろう。



消費と消耗を繰り返す隙間だらけの日々のなかにだって、小さくとも幸せの芽はちゃんとある。


あたしはそう信じている。






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