女の隙間、男の作為

「結城部長。コロナで数字は厳しいですからね、がんばってくださいよ。あたしのボーナス下がったら呪うからね」
「マイちゃん。君のボーナスはすべて酒に消えてるでしょ」
「ちがうよ。レンとアリスにも投資してるもん」
「あ~、双子たちにもずっと会えてないな。コロナ早く終わらないからな」

レンとアリスというのは私たちの甥と姪だ。睦月はあれからアレシアというイタリア系の女性と結婚し双子のパパとなった。今でもフロリダに住んでアプリを開発する会社に勤めている。こんな世界になってからはパソコン越しでしか弟家族に会えていない。


「そうだね。まず最初にフロリダに行ってむっくんを甘やかさないとな」
「お姉ちゃん、やさしいね」
「だって、あいつシスコンだもん」
「いや、マイがブラコンなんでしょ」
「そうともいうかな」

相変わらず姉弟の仲はいいし、睦月は結城のことを神様のように扱うので、結城も義理の弟をかわいがってくれる。
なぜ神様かって?

『マイちゃん。マイちゃんを嫁にしてくれるなんて後にも先にも圭ちゃんだけだよ。マイちゃんが大事にできない分俺が大事にするから感謝してよね』

オンラインで話すたびに意味不明なことを言って姉を困らせる。

「マイ~」
「なに」

この男はいつのころか、家ではあたしを下の名前で呼び始め、最初はいちいち訂正させていたが、入籍してしまってからは訂正を諦めた。今でも麻依子という名前は好きになれないが、実家の両親と弟に加え、こいつも家族になってしまったのだから仕方ない。好きに呼ばせることにしている。(ただし、オフィスでは必ずカノと呼ばせている)

「俺のiPhone見つけてくれたのマイだよね?」
「見つけたんじゃなくて押し売りされたの」

脳裏に浮かぶカラコンのずれたアーモンド型の瞳。今ごろ、あの子もあのメイクを落としてコンタクトも外して、素顔に戻っているのだろうか。

「ごめん」

こめかみに感じる体温はあの頃をなにもかわらない。

「別に。ただこのご時世なので、知らない人と距離詰めないようにね」
「ソーシャルディスタンスは守ってたよ」
「あら、そう? あたしに喧嘩売るほど圭史くんのこと好きみたいだったよ」
「俺の魅力は衰え知らずで困るよね」
「ううん。別に困ってない」
「マイ~。困ろうよ。そこは困るところだよ」
「うるさいな。社会人なんだからiPhoneの管理くらいちゃんとやってよ。これがパソコンなら始末書だよ!」
「わかってます。今後上着から目は離しません!」
「再発防止に努めるように」
「了解です。“結城部長”」

男はうれしそうに笑い、そしてあたしから缶をとりあげて、図々しくもふたりの距離をゼロにした。

「ベッドいく? ソファにする?」
「…どっちでもいい」

(明日は在宅勤務だし、多少寝坊しても平気だし、まぁいっか。でも後でやっぱり一発殴っておこう)


fin.
(20210803)
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