女の隙間、男の作為

「松岡さん、遅ればせながら、地獄へようこそ」

「ありがとう。ってえ?地獄?」

その先を遮るように主役とグラスを鳴らして二杯目のグラスに口をつけた。
さすがに二杯目はペースを落とさなくては。
こんなアホみたいな営業バカ達のペースに合わせると自分がバカを見るのはこの6年という時間で嫌というほどわかっている。

「ここから延々朝までコースですよ?部長はこれからどんどん絡みづらくなってめんどくさいし、役員は口が悪くなるし、水野くんは次の店くらいから脱ぎ出すだろうし、結城は女を口説き始める」

“それで?松岡さんは?飲むとどうなるの?”

誰も箸をつけていないであろう軟骨の唐揚をつまみながら隣の主役に話を振った。

「カノちゃんが見たいって言うなら脱いでもいいけどなぁ」

ふわりと柑橘系の匂いが香ったのは3秒前より距離が縮まったからだろう。
五月蝿い店内を言い訳にしても無理があるような至近距離に密かに息を吐く。
黒曜石みたいな瞳は確かに魅力的だけど同時に見透かされるような妖しい輝きに理由もなく不安になる。

スモーカーのくせに煙草の臭いを気にさせない。つまり結城と同じタイプ。
結論、女に見境がない。
今日のネクタイもポールスミスだった。
まだ胸元が緩んでいない。
仕事モードが抜けないのか別の意図があるのか。
興味も無いから詮索もしないけれど観察はやめない。

「水野くんだけで充分だよ。
それから質問の答えもありがとう。
つまり結城と同じでお酒が入るといつも以上に女の子に近づくってことだね」

“でもあたしより若い子のほうがいいと思うよ”

柑橘系の香りは嫌いじゃないし御子柴と違って至近距離で見ても耐えられる顔面だし役員と違って脚が触れていても嫌悪感は無い。
でも微妙の後輩の女の子の視線が痛い。
かといって彼女達はあたしが男とは無縁の生活を送っていることをちゃんと知っているのであからさまな敵意を向けてくることはないし、あのフロアであたしを敵に回すような真似をするほど頭が悪いわけでもないのだろう。

ここの営業の男共があたしの能力は買っていても女子力を認めていないことは明らかだ。

< 18 / 146 >

この作品をシェア

pagetop