女の隙間、男の作為
“松岡さん?”

そう。
部屋にいたのは松岡祥平だった。
何とも美味しそうな均整の取れた上半身を惜しげもなく晒してあたしの冷蔵庫から取り出したに違いないボルビックをぐびぐびと飲んでいるのは同じ会社の同じ部署の男なのだ。
二日酔いとは別次元の頭痛があたしを襲うのも当然。
しかもあたしの嫌う単語を少なくとも5回以上は連呼している。

「飲みすぎてヘロヘロになったのは覚えてる?」

「三回吐いたことまで覚えてる」

「四回目が俺のシャツだったことは?」

「嘘!…それは…誠に申し訳ありません」

なんてことだ。
30歳目前にして人様の向かって吐くとは!何たる失態!
地中奥深くに埋まる勢いでベッドの上で額を押しつけた。

「別にいいけど。上半身裸の理由は理解できた?」

「はぁ。送っていただいたことも理解いたしましたが…」

肝心要の問題の説明が為されていない。
意味深に口角をあげる男から簡単に聞き出せそうもないなと思いながら、あるとんでもない事実がもうひとつ発覚した。



「あのー松岡さん?」

「なに?」

「たぶんスカートとストッキングは自分で脱いだと思うんですけどー」

「うん。誘惑されるのかと思ったけど寝オチしたからびっくりした」

それは期待を裏切って申し訳ない。
って別にあたしが謝る必要は断じてない。
それもそのはず。だって、だって。

「なら、なんでブラのホックが外れてるの?
あたしは酔っ払ってもそんな習慣はないのですが」

上から3番目のボタンまで外れたシャツよりも激しい違和感は中身にあった。
ホックのはずれた下着が中途半端にシャツの内部で浮いていた。

二つの黒曜石が妖しげに光ったのはこの瞬間だった。
そしてその反応が全ての答えだ。
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